インプラントは失った歯を補う治療法として多くの方に選ばれていますが、治療の過程や治療後に歯茎にさまざまな変化が起こることがあります。歯茎が下がる、黒く見える、痛みや腫れが出るなどの症状は珍しくありません。ここでは、インプラント治療で起こる可能性のある歯茎のトラブルや原因、対処法について歯科の観点から詳しく解説します。
インプラント治療の過程で起こる可能性がある症状
インプラント治療を受けている途中で、歯茎(歯肉)に変化が見られることがあります。多くは治療過程の一部として自然に起こるものですが、原因を理解しておくことで不安を減らすことができます。ここでは代表的な症状について解説します。
①抜歯の影響で歯茎が下がることがある
インプラント治療では、まず失われた歯の部分の状態を整える必要があります。虫歯や歯周病などで歯を抜いた場合、その周囲の骨や歯茎が時間の経過とともに痩せることがあります。
歯を支えていた骨は、歯がなくなると刺激を受けなくなるため徐々に吸収されます。これに伴い歯茎も下がり、歯肉がへこんだように見える場合があります。特に前歯のインプラントでは、歯茎が下がることで見た目に影響が出ることもあります。
このような場合、歯科では骨造成や歯肉形成といった処置を行い、歯茎のボリュームを回復させながらインプラント治療を進めることがあります。
②歯茎が黒く見える場合がある
インプラント周囲の歯茎が黒く見えることがあります。これはいくつかの原因によって起こります。
代表的な原因のひとつは、歯茎が薄い場合です。歯肉が薄いと、インプラントの金属部分やアバットメントが透けて見え、歯茎が黒っぽく見えることがあります。
また、歯茎の血流や色調の変化、歯肉の厚み不足、歯肉退縮なども原因となることがあります。特に前歯のインプラントでは審美性が重要なため、歯肉移植などで歯茎の厚みを補う治療が行われる場合もあります。
歯茎が黒く見える症状は必ずしも異常とは限りませんが、見た目が気になる場合や変化が急に起こった場合は歯科で相談することが大切です。
インプラント治療の後で起こる可能性がある症状
インプラント治療が完了した後でも、歯茎の状態によってさまざまな症状が現れることがあります。痛みや腫れ、膿などの症状は、歯周病に似た炎症が関係している場合もあるため注意が必要です。
ここでは、インプラント治療後に見られる代表的な歯茎の症状について解説します。
①歯茎が痛む・腫れる
インプラント周囲の歯茎が痛い、押すと痛い、腫れているといった症状が現れることがあります。
手術直後であれば一時的な炎症反応として起こることがありますが、時間が経ってから痛みや腫れが出た場合は注意が必要です。歯垢や歯石が溜まり、細菌感染によって歯肉に炎症が起きている可能性があります。
このような状態が進行すると、インプラント周囲炎という病気につながる場合があります。インプラント周囲炎は、歯周病と同じように歯茎の腫れや出血、骨の吸収を引き起こすため、早めの診察が重要です。
②治療部分から膿が出る
インプラントの周囲から膿が出る場合は、細菌感染による炎症が進行している可能性があります。膿は歯肉内部で炎症が起きているサインの一つです。
原因として多いのは、歯周病菌による感染です。インプラント周囲に歯垢が溜まると、細菌が増殖して歯肉の炎症が強くなり、膿が出ることがあります。
この状態を放置すると、インプラントを支えている骨が吸収されることがあります。骨の吸収が進むとインプラントの安定性が低下するため、膿が出る症状を感じた場合は早めに歯科医院を受診することが重要です。
③歯茎に隙間ができる
インプラントの歯と歯茎の間に隙間ができることがあります。これは歯茎が痩せる、または歯肉が下がることで起こる現象です。
歯茎のボリュームが減ると、インプラントと歯肉の境目が目立ちやすくなります。食べ物が詰まりやすくなったり、見た目が気になったりすることもあります。
歯茎が痩せる原因としては、歯周病、歯ぎしり、過度なブラッシング、歯肉の薄さなどが挙げられます。状況によっては歯肉移植や歯肉形成などの治療が検討されることもあります。
④歯茎が白く見える
インプラント周囲の歯茎が白く見えることがあります。これはアバットメントをsetした後などに、歯肉の血流が一時的に低下している場合に起こることがあります。
多くの場合は時間の経過とともに正常な色に戻りますが、痛みや腫れ、出血などの症状を伴う場合は歯科医院で状態を確認してもらうことが大切です。
インプラント治療中に歯茎の異変を感じたら
インプラント治療中や治療後に歯茎の痛み、腫れ、色の変化などの異変を感じた場合は、自己判断で様子を見るのではなく歯科医院へ相談することが重要です。
インプラントは顎の骨に人工歯根を埋め込む治療であり、周囲の歯肉や骨の健康状態が安定していることが長期的な成功に大きく関係します。小さな炎症でも放置すると症状が進行し、インプラント周囲炎などのトラブルにつながる可能性があります。
そのため、治療中・治療後は歯科医院で定期的なメンテナンスを受けることが大切です。歯科では歯肉の状態や歯周ポケットの深さ、インプラント周囲の骨の状態などを定期的に確認します。
また、自宅でのセルフケアも重要です。歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやデンタルフロスなどを使用してインプラント周囲を清潔に保つよう心がけましょう。
定期通院の予定日より前でも、歯茎の腫れ・痛み・膿・出血などの異変を感じた場合は、早めに歯科医院へ連絡し診察を受けることが大切です。早期対応によって、トラブルの悪化を防ぐことができます。
知っておきたい「インプラント周囲炎」の原因や症状
インプラントにも、歯周病とよく似た病気があります。それが「インプラント周囲炎」です。
インプラント周囲炎は、インプラントの周囲の歯肉や骨に炎症が起こる病気で、進行するとインプラントを支えている骨が吸収されてしまうことがあります。重度になるとインプラントがぐらつき、最終的には脱落する可能性もあります。
さらに、インプラント周囲炎は一度進行すると完全に元の状態へ戻すことが難しい場合もあります。そのため、早期発見と予防が非常に重要です。
主な原因は歯垢(プラーク)に含まれる細菌です。セルフケアが不十分な場合や、定期メンテナンスを受けていない場合に発症リスクが高くなります。また、喫煙、歯周病の既往、糖尿病などの全身疾患も発症リスクに関係するとされています。
代表的な症状には次のようなものがあります。
- 歯茎の腫れや出血
- 歯茎の痛み
- 歯茎から膿が出る
- 歯茎が下がる
- インプラント周囲の骨が減る
このような症状に気付いた場合は、できるだけ早く歯科医院で診察を受けることが大切です。
インプラント周囲炎を予防する方法
インプラント周囲炎を防ぐためには、日常的なセルフケアと歯科医院での定期メンテナンスの両方が重要です。
まず、自宅でのケアでは歯ブラシによる丁寧なブラッシングが基本となります。インプラント周囲は汚れが溜まりやすいため、歯間ブラシやデンタルフロスを併用して清掃することが推奨されます。
また、歯科医院では専門的なクリーニングや歯肉の状態のチェック、レントゲン検査などを行い、炎症の兆候を早期に発見します。一般的には3〜6か月ごとの定期検診が推奨されています。
さらに、生活習慣の見直しも重要です。喫煙は歯肉の血流を悪くし、炎症を悪化させる原因となるため、インプラント治療後は禁煙が望ましいとされています。糖尿病などの全身疾患がある場合も、適切な管理が必要です。
インプラントを長く健康に使い続けるためには、セルフケア・定期メンテナンス・生活習慣の管理を継続することが大切です。
インプラント周囲炎の治療法
インプラント周囲炎が発症した場合は、症状の進行度に応じて治療が行われます。
初期段階では、歯科医院でインプラント周囲の歯垢や歯石を除去するクリーニングや、専用の器具による感染部位の清掃を行います。また、抗菌薬を使用して炎症を抑えることもあります。
炎症が進行している場合には、外科的な治療が必要になることもあります。歯肉を開いて感染した組織を取り除いたり、骨の再生治療を行ったりするケースもあります。
インプラント周囲炎は進行すると治療が難しくなるため、早期の対応が非常に重要です。歯茎の腫れや出血などの症状がある場合は、放置せず歯科医院で診察を受けるようにしましょう。
まとめ
インプラント治療では、歯茎にさまざまな変化が起こることがあります。歯茎が下がる、黒く見える、痛みや腫れが出る、膿が出るなどの症状は、治療過程やその後の口腔環境によって生じる可能性があります。
特に注意が必要なのがインプラント周囲炎です。歯周病と同じように歯肉や骨に炎症が起こり、放置するとインプラントの脱落につながることもあります。
インプラントを長く使い続けるためには、毎日のセルフケアと歯科医院での定期メンテナンスが欠かせません。歯茎の色の変化や痛み、腫れなどの異常を感じた場合は、早めに歯科医院へ相談することが大切です。
愛媛県松山市のカナザキ歯科では、日本口腔インプラント学会専門医による診療体制のもと、インプラント治療後のメンテナンスや歯茎のトラブルにも対応しています。
インプラント周囲炎の予防や歯肉の状態が気になる方、歯茎の下がりや見た目に不安がある方は、まずはお気軽にご相談ください。
監修:カナザキ歯科 院長 金﨑伸幸
【経歴】| 1990年 | 九州歯科大学卒業「Award of Dentsply」受賞 |
| 1994年 | 九州歯科大学保存修復学 大学院博士課程修了(歯学博士) |
| 北九州市 野田歯科医院 勤務 | |
| 九州歯科大学 非常勤講師 兼務 | |
| 1997年 | 松山市 田窪歯科医院 勤務 |
| 1999年 | カナザキ歯科 開業 |
| 2001年 | 愛媛県立歯科技術専門学校 歯科技工士科講師 |
| 愛媛県保険医協会 理事 就任 | |
| 2004年 | 医療法人 仁和会 設立 |
| 理事長 就任 | |
| 2006年 | 国際矯正歯科アカデミー |
| 矯正歯科認定医 | |
| 2007年 | 仁和会インプラントセンター 設立 |
| SEDIT(審美とインプラントのスタディグループ)設立 | |
| 日本咬合育成研究会 | |
| 筋機能訓練歯科医院 修了証 | |
| 日本臨床歯周病学会 認定医 | |
| 厚労省認定 臨床研修指導医 | |
| 2010年 | 河原医療大学校 歯科技工士科 講師に任ぜられる |
| ICOI国際インプラント学会認定医 合格 | |
| 2011年 | 日本歯周病学会 専門医 |
| 日本顎咬合学会 認定医 | |
| 2012年 | インプラントSD正式認定講師に任ぜられる |
| 2013年 | プラトン社ELインプラント正式認定講師に任ぜられる |
| 厚生労働省より管理型歯科医師臨床研修施設の指定をうける | |
| 2014年 | ノーベルバイオケア社インプラント公認インストラクターに任ぜられる |
| 2016年 | 日本口腔インプラント学会 |
| インプラント専門医 | |
| 2017年 | 九州歯科大学 保存修復・審美歯科 |
| 非常勤講師 | |
| 2019年 | 九州歯科大学1保存大学院 |
| セミナー講師(歯周外科・補綴) | |
| 日本総合歯科学会 委員 | |
| 2020年 | 愛媛大学医学部 非常勤講師 |
| 2022年 | 日本歯科教育学会プログラム |
| 責任者講習会タスクフォース | |
| 2023年 | 日本歯周病学会 指導医 |