歯を失った際の治療法には、インプラント・ブリッジ・入れ歯の3つが主な選択肢です。この記事では、それぞれの特徴・メリット・デメリットを比較表でわかりやすく解説し、自分に合った治療法を選ぶための判断材料を提供します。
インプラント・ブリッジ・入れ歯の比較表
項目 | インプラント | ブリッジ | 入れ歯 |
---|---|---|---|
耐久性(寿命) | 約10〜20年(ケア次第でさらに長持ち) | 約7〜10年 | 約3〜7年(破損・変形しやすい) |
審美性 | 天然歯に近い美しさあり | 自然な見た目だが歯肉との境目が目立つことも | 見た目はやや劣る(バネが見える場合あり) |
安定感 | 固定式で安定性が高い | 両隣の歯に固定するため比較的安定 | 外れやすく、不安定になりやすい |
違和感 | ほぼない | 少ない | 口腔内に異物感を感じやすい |
噛む力 | 天然歯に近く強く噛める | おおよそ70%程度回復 | 30〜40%程度と低下 |
他の歯への影響 | 影響なし(単独で治療可能) | 両隣の健康な歯を削る必要がある | 周囲の歯に負担がかかることも |
味覚への影響 | 影響なし | 影響なし | 入れ歯の床が味覚を遮ることがある |
歯槽骨の吸収 | 骨に適度な力が加わるため吸収を防げる可能性あり | 歯周病等で少しずつ吸収が進行する可能性あり | 顎の骨にあまり圧がかからないため吸収が進行しやすい |
適応症 | 顎の骨がしっかりしている健康な成人 | 両隣に健康な歯がある部分欠損の症例 | 多数の歯を失った場合や全体の咬合調整が必要な場合 |
治療可能本数 | 単独〜全顎対応可能(All-on-4など) | 1〜数本程度の欠損に対応 | 1本〜全顎対応可能(部分・総入れ歯) |
手術の有無 | 外科手術が必要 | 不要 | 不要 |
治療期間 | 約3〜6か月(骨との結合が必要) | 約2〜4週間 | 数日〜数週間で完成可能 |
保険適用 | 自費治療のみ | 部分的に保険適用可 | 保険適用あり(自由診療も可) |
費用相場 | 約40〜60万円/1本 | 約5〜15万円/1本 | 保険:1〜3万円程度/自由診療:5〜20万円 |
インプラントの特徴

インプラント治療は、歯を失った部分の顎の骨に人工歯根(チタンやジルコニア製)を埋め込み、その上に人工歯を装着する方法です。固定式で安定感があり、見た目・機能性ともに天然歯に最も近い治療法とされています。
メリット
- 見た目が自然で審美性が高い
セラミックなどの人工歯を用いることで、周囲の歯と調和しやすく、審美性が非常に高い。 - 噛む力が強く、天然歯に近い咀嚼能力を回復できる
顎の骨としっかり結合するため、硬いものもしっかり噛める。 - 周囲の健康な歯を削る必要がない
ブリッジと違い、両隣の歯を削らずに治療が可能。 - 骨に力が加わることで、歯槽骨の吸収を防げる
- 長期間の使用が可能
適切なメンテナンスを行えば、10〜20年以上機能するケースも多い。
デメリット
- 外科手術が必要
顎の骨に人工歯根を埋め込むため、手術が避けられない。体質によっては不適応の場合もある。 - 治療期間が長い
骨との結合を待つ必要があるため、全体で3〜6か月ほどかかることが一般的。 - 費用が高額
保険適用外で、1本あたり40〜50万円と高額な自費治療。 - 全身疾患や顎骨の状態によっては治療ができないこともある
糖尿病や骨粗鬆症など、手術にリスクがある方は治療を受けられない可能性がある。
ブリッジの特徴
ブリッジ治療は、失った歯の両隣の健康な歯を削って支台とし、その上に橋をかけるように人工歯を装着する方法です。固定式であるため、入れ歯のような取り外しの手間がない一方、支えとなる歯に負担がかかる点が特徴です。
メリット
- 固定式で安定感がある
支台となる歯にしっかり固定されるため、噛んだときのぐらつきが少ない。 - 見た目が比較的自然
使用する素材によっては、審美的に優れた仕上がりになる。前歯にも適応可能。 - 治療期間が比較的短い
一般的に2~4週間程度で治療が完了するケースが多い。 - 外科手術が不要
インプラントのような手術を必要とせず、身体への負担が少ない。 - 保険適用の範囲がある
使用する素材によっては保険が適用され、費用を抑えることができる。
デメリット
- 健康な歯を削る必要がある
両隣の健全な歯を支えにするため、削ることによって歯の寿命が短くなる可能性がある。 - 支台となる歯に負担がかかる
噛み合わせの力が支台歯に集中することで、将来的に歯が割れたり、ぐらつく原因になることも。 - 歯槽骨の吸収を防げない
顎の骨に刺激が加わらないため、長期間使用すると骨が徐々に痩せていく可能性がある。 - ブリッジの寿命はインプラントより短い
一般的に7~10年程度の耐用年数とされており、メンテナンスが重要。
入れ歯の特徴
入れ歯は、歯を失った部分に対して人工の歯と床(しょう)と呼ばれる樹脂などで構成された補綴装置を装着する治療法です。部分入れ歯と総入れ歯があり、歯を多数失ったケースにも柔軟に対応できるのが特長です。取り外し可能で、保険適用の範囲も広く、比較的費用を抑えられる治療法です。
メリット
- 治療期間が短く済む
状況にもよるが、型取りから完成まで数日~数週間と、比較的スピーディに治療が進む。 - 多数の歯を一度に補える
複数の歯を一気に補うことができ、総入れ歯であれば全ての歯をカバーできる。 - 費用が比較的安価
保険適用の範囲が広く、経済的負担を軽減できる。自由診療でも他の治療法と比べて安価な傾向がある。 - 外科手術が不要
外科的処置を伴わないため、高齢者や持病を持つ方でも治療を受けやすい。 - 治療対象が広い
顎の骨が薄い方や、全身疾患がある方など、他の治療が難しいケースでも対応可能。
デメリット
- 違和感が出やすい
装着時に異物感を覚えたり、発音がしづらくなることがある。 - 安定感がやや劣る
食事中に外れたり、ずれたりする可能性があり、強く噛む力は出にくい。 - 見た目に制限がある
バネや床の部分が目立ちやすく、審美性に欠けるケースもある。 - 味覚に影響が出る場合がある
床の部分が上顎や舌を覆うため、味を感じにくくなることがある。 - 歯槽骨が吸収されやすい
顎に力が加わらず、時間の経過とともに骨が痩せやすい傾向にある。
インプラント・ブリッジ・入れ歯の利用者の割合
歯を失った際の治療方法として、実際にどれが多く選ばれているのかを知ることで、自身の選択に対する安心感や納得感が高まります。ここでは、厚生労働省の調査結果や複数の歯科医院による報告をもとに、インプラント・ブリッジ・入れ歯を利用している人の割合を年代別に見ていきます。
インプラントをしている人の割合
インプラントは審美性や機能性に優れた治療法ですが、外科手術が必要で費用も高額なため、選択する人の割合はまだ少数派です。
調査によると、50代〜70代の年代でインプラントをしている人は全体の5%未満とされています(厚労省・各種歯科医院調べ)。
要因としては、
- 手術への不安
- 治療費の高さ
- 治療期間の長さ
が挙げられます。
ただし、審美意識の高まりやインプラント技術の進化により、今後は選択者が増加する可能性があります。
ブリッジをしている人の割合
ブリッジはインプラントよりも治療期間が短く、手術が不要で比較的選ばれやすい治療法です。
厚労省などの調査によると、50代〜70代の年代でブリッジ治療を受けている人の割合は、約50%弱にのぼります。
多く選ばれている理由は、
- 治療期間が短い
- 手術が不要で心理的ハードルが低い
- 保険診療の対象となる場合がある
といった点が挙げられます。
ただし、支台となる歯に負担がかかる点や耐久性の問題から、再治療が必要になることも少なくありません。
入れ歯をしている人の割合
入れ歯は、特に高齢層を中心に広く利用されている治療法です。治療費が比較的安価であり、保険が適用されることから、初めての補綴治療として選ばれやすい傾向にあります。
調査結果では、
- 50代〜70代における部分入れ歯の利用率は10〜40%
- 70代になると総入れ歯の利用率は20%弱
とされています。
入れ歯は、
- 治療対象が幅広い
- 身体への負担が少ない
といった利点がある一方、 - 安定感や審美性に課題がある
ことも多く、定期的な調整や再作製が必要です。
インプラント・ブリッジ・入れ歯のどれを選べばよい?

歯を失った際にどの治療法を選ぶべきかは、年齢・全身状態・歯の本数・審美性の希望・予算・ライフスタイルなど、多くの要素によって異なります。以下では、それぞれの治療法がどのような方におすすめかをまとめました。
インプラントがおすすめな人
- 1本〜複数本の歯を失っており、周囲の歯を削りたくない人
→ 健康な歯を守りたい人に最適な選択肢です。 - 審美性・機能性のどちらも重視したい人
→ 天然歯に近い見た目と噛む力を回復できます。 - 比較的若く、長期間安定した治療を求めている人
→ 耐久性に優れ、将来的なメンテナンスの手間が少ない。 - 手術に抵抗がなく、治療期間に余裕がある人
→ 骨との結合に時間を要するため、長期計画での治療が可能な方に向いています。 - 予算に余裕がある人(1本40万〜60万円程度)
→ 自費治療であるため、コスト面の検討が必要です。
ブリッジがおすすめな人
- 歯を1〜2本失っており、両隣に健康な歯が残っている人
→ 支えとなる歯があることで、比較的スムーズに治療が進められます。 - 外科手術を避けたい人
→ インプラントのような手術が不要で、身体への負担が軽いです。 - 治療期間を短く済ませたい人
→ 約2〜4週間で完了するため、忙しい方にも適しています。 - 予算を抑えつつ、固定式の補綴物を希望する人
→ 保険適用の選択肢もあり、比較的費用を抑えやすいです。 - 見た目にもある程度こだわりたい人
→ セラミックなどの素材を選べば、自然な見た目に仕上がります。
入れ歯がおすすめな人
- 多数の歯を失っている人、または全ての歯を失っている人
→ 部分入れ歯・総入れ歯のどちらにも対応でき、適応範囲が広いです。 - 全身疾患や高齢で外科手術が難しい人
→ 身体的な負担が少なく、手術を回避したい方に適しています。 - 短期間で治療を終えたい人
→ 数日〜数週間で完成するため、早く咀嚼機能を回復できます。 - できるだけ費用を抑えたい人
→ 保険診療の範囲が広く、低コストでの治療が可能です。 - 取り外し可能な補綴装置を希望する人
→ 自分で取り外して清掃できるため、衛生面に配慮したい方にも向いています。
インプラントとブリッジの併用も可能
歯を複数本失った場合、治療法はインプラント・ブリッジ・入れ歯のいずれかを単独で選ぶのが一般的ですが、インプラントとブリッジを併用する方法も存在します。これは、インプラントを支柱としてブリッジをかける方法で、複数歯を効率よく補うことができる治療法です。
例えば、3本連続して歯を失った場合、インプラントを2本埋入して両端に配置し、その上に3本分のブリッジを載せるという設計が可能です。これにより、インプラントの本数を抑えつつ、審美性・安定性を確保することができます。
以下では、この併用治療のメリットとデメリットをそれぞれ解説します。
併用するメリット
- インプラントの本数を減らせる
すべての欠損部位にインプラントを入れる必要がないため、費用や手術負担を抑えられます。 - 固定式で安定感が高い
インプラントが土台となることで、ブリッジもずれにくく、しっかり噛める設計になります。 - 審美性に優れている
セラミック素材などを用いることで、見た目にも自然な仕上がりが可能です。 - 複数歯をまとめて補える
欠損本数が多い場合でも、スマートに咬合機能を回復できる治療方法です。 - 入れ歯に比べて異物感が少ない
固定式であり、取り外しの必要がないため、装着時の違和感が少ないのも利点です。
併用するデメリット
- 外科手術が必要になる
インプラントを埋入するため、手術への理解と対応が必要です。 - インプラントの位置や角度に制限がある
ブリッジ設計の都合上、インプラントの埋入位置に制限がかかる場合があります。 - 支えとなるインプラントに過剰な負荷がかかるリスク
中央の人工歯には支えがないため、両端のインプラントに負担が集中しやすくなります。 - 自費診療で費用が高額になる場合が多い
ブリッジ+インプラントの組み合わせは基本的に保険外となり、費用は高めになります。 - 適応症が限られる
骨の状態や欠損の位置、本数によっては、この方法が適さないケースもあります。
まとめ
歯を失った場合の治療法には、インプラント・ブリッジ・入れ歯の3つがあり、それぞれに特徴・メリット・デメリットがあります。治療の選択においては、見た目・噛む力・他の歯への影響・治療期間・費用・身体的負担といった要素を総合的に判断することが大切です。
- インプラントは、見た目・機能性・耐久性に優れ、他の歯に負担をかけない治療ですが、手術や高額な費用、長い治療期間がネックになります。
- ブリッジは、比較的短期間で安定した補綴が可能で、見た目も自然ですが、隣の健康な歯を削る必要がある点に注意が必要です。
- 入れ歯は、費用を抑えたい方や外科手術が難しい方に適した治療であり、柔軟な対応が可能ですが、噛む力や審美性の面では他の治療法に劣ることがあります。
さらに、インプラントとブリッジを併用する選択肢もあり、症例によってはコストと機能のバランスを取ることが可能です。
治療法の選択に迷った際は、口腔内の状態や生活スタイル、将来のメンテナンス性も含めて、歯科医師としっかり相談することが重要です。自分に最も適した治療を選び、健康的な口腔環境を維持していきましょう。