2023年9月27日 インプラント
インプラント治療は本当に安全なのだろうか?インプラントという言葉はよく耳にするが、実際どんなものなのか?このような疑問をお持ちの方はとても多く、私もたくさんの方からご相談を受けます。
インプラントに関する知識が今一つぼんやりしている方はこのブログをお読みくださると、自分でインプラントの良し悪しがほぼ判断できるようになります。
ここではインプラントの概要から少し詳しいところまで丁寧に偏りなく解説いたしますのでご参考になさってください。
歯周病などで歯がダメになり欠損してしまうと、途端に食事が食べにくくなります。
これを補うには主に「入れ歯」「ブリッジ」「インプラント」の3つの方法がありますが、最も噛みやすいのはインプラントです。
入れ歯が天然歯の6分の1程度の噛みやすさなのに対して、インプラントは天然歯の90%の咀嚼効率があるといわれています。
チタン製のインプラントが主流ですが、骨との親和性が高く、骨に直径4mm深さ10mm程度の穴をあけて埋入すると比較的短期間でインテグレーション(骨結合)します。その後、上部構造としてアバットメント(土台)とクラウンをスクリューで固定すると天然歯に近い咀嚼機能を回復することができます。
人のかみ合わせは28本の歯で支えられています。28本の歯は左右の歯で対称な形になっていますが、それぞれに役割が違います。
臼歯は強いかみ合わせの力を支える役割と、食べ物をかみ砕く役目、前歯は顎の動きをガイドし臼歯への過重負担を分散する役割と食べ物をキャッチし、適度な大きさに分割する役割など1本1本の歯がそれぞれの役割を果たすことで全体のかみ合わせが調和しています。
ですから1本でも歯を失うと全体のバランスが崩れ、最初はゆっくりと、徐々に加速しながら歯列全体の崩壊が進んでゆき、最終的には全ての歯を失います。
歯を失うと咀嚼がしづらくなりたんぱく質や食物繊維の摂取量が減少し、柔らかい糖質に偏った食事が多くなります。そうなると加齢とともにメタボリックシンドロームになり、腸内環境が悪くなったり、タンパク質の不足により筋肉量が減少し、さまざまな致命的疾患やフレイルなどに陥り、将来的には寝たきりや要介護となり、悲しい晩年を過ごすことになります。
1本も歯を失わないように予防することが一番大切ですが、1本でも失ったとすれば放置せず一刻も早く歯を補うことが大切なのです。
前述の通り、歯を失った場合補う方法は3つあります。入れ歯、ブリッジ、インプラントです。
入れ歯は安価ですが安定が悪く違和感があります。咀嚼効率は天然歯の6分の1程度であるというデーターがあります。
(A Study of Masticatory Ability in the Elderly A Comparison between Dentulous Subjects and Denture Wearers- Nakashima Mihoko, Okimoto Kimie, Matsuo Koichi and Terada Yoshihiro,Jpn Prosthodont Soc 47: 779-786, 2003)
ブリッジは欠損部の両隣接歯を相当量削る必要があり歯の寿命がかなり短くなるという報告があります。
その点インプラントは単独で植立でき、むしろほかの歯にかかる負担を減少させることになりますので歯の寿命が延びます。
また咀嚼効率は天然歯の90%はあると報告されています。この他、歯を抜いたあとにほかの部位の親しらずを移植する方法もあります。
インプラントには、構造や形状、メーカーなどによってさまざまな種類がありますが、材料と構造の違いに分けてご説明しましょう。
ほとんどのインプラントはチタンでできています。純チタン製ととチタン合金製があり純チタンの方が一般的に生体親和性が高いと考えられていますが、機械的強度はチタン合金の方が高いようです。
ジルコニア性の白いインプラントはアレルギー反応が起きないことで知られています。私の医院でも金属アレルギーがひどい人に10ケースほど埋入しましたが今のところアレルギー反応は起きておらず、経過は良好です。また歯肉との親和性が高くインプラント周囲炎も起こりにくいと感じております。
ただ硬度は高いのですが、チタンよりも脆いため破折の危険性がありますので機械的強度が今後の課題といえるでしょう。特に2ピースタイプのものは非常に繊細に扱う必要があります。強い咬合力がかかる臼歯部は1ピースタイプ、角度変更の必要性が高い前歯部は2ピースタイプが適しているでしょう。
アバットメント(土台)とインプラント体が一体になっているものを1ピース、別々になっているものをスクリューで固定して使うものを2ピースタイプといいます。
インプラントを埋入する際には良い条件の骨があるところに埋入する必要があるため必ずしも歯の方向と一致しない場合があります。
2ピースではアバットメントの角度を変更してインプラントにスクリューで固定することで上部構造(歯の部分)をより適切に位置付けることができます。
1ピースではアバットメントの方向がインプラントの方向と同じであるため上部構造を作る際に制限が多くなってしまいます。そのため最近では1ピースインプラントはあまり販売されなくなっています。
下の図の左側は1ピース、右側は2ピースのインプラントです。
アバットメントとインプラント体の接続部の構造は2つのタイプに分かれます。
1つはエクスターナルといい、インプラントのプラットホーム上に6角形の出っ張りがありその上にスクリューでアバットメントを固定するためアバットメントの回転を防ぐことができます。
連結した上部構造を使う場合などは自由度が高くいろいろな構造物を作りやすいのですが接続部にマイクロギャップという隙間ができてしまうため、つなぎ目に細菌が入り込みやすくインプラント周囲炎が起きる可能性が高くなります。
2つめのインターナルはインプラントのヘッドにロート状の陥凹があり、アバットメント下部にはインプラントの陥凹部分にピッタリ入る円錐状の構造物ががあります。スクリューを締めることでこの部分が正確に勘合し、細菌の侵入を防ぐ効果もあり、術後に骨吸収が起こりにくいと考えられています。
下の図の左側がインターナル、右側がイクスターナルです。
インプラント体が円筒形になっており一定のトルクで埋入できるため骨へのダメージが少ないのが特徴です。その反面強い埋入トルクはでにくいので即時荷重には向きません。
先端が細く上部に行くにしたがって太くなっているため、埋入トルクを大きくしやすいのが特徴です。即時荷重には適していますが骨にダメージを与えやすいともいえます。
インプラントの上部(プラットホーム)が斜めに切られ、骨の形状が平坦ではなく斜面になっていることが多いため、骨に沿った埋入ができます。骨吸収に対応でき、骨の条件が悪い場合にも骨を最大限に利用できるため非常に安定の良い結果を得られます。
インプラントのメリットは、以下のようなものがあります。
・とにかくよく噛める
・自分の歯に近い噛み心地や見た目を得られる
・ブリッジのように隣の歯を削る必要がない
・支持が増え、負担が減るために他の歯の寿命が延びる
インプラントのデメリットは、以下のようなものがあります。
・他の治療法より若干費用が高い
・外科手術が必要で、治療期間が長い(6~12か月)
・可能性は低いが感染や金属アレルギーなどのリスクがある
・清掃を怠るとインプラント周囲炎が起こる可能性がある
インプラント治療を受ける際には、メリットとデメリットをよく理解して、自分に合った治療法を選ぶことが大切です。
インプラントにも適応症があり、以下のようにできる人と、できない人があります。
インプラントができる人
・歯を失った人
・18歳以上の人
・顎の骨が必要十分にある人
・全身の健康状態が良好な人
・歯周病や虫歯が治療されている人
・喫煙を控えている人
インプラントができない人
・18歳未満の人
・顎の骨が少ない人
・心臓病や脳卒中、脳梗塞などの重篤な疾患を持つ人
・糖尿病や腎疾患などの慢性的な疾患を持つ人
・妊娠中の女性
・ヘビースモーカーの人
インプラントができない人でも、他の治療法で歯を補うことは可能です。例えば、入れ歯やブリッジなどがあります。インプラントに興味がある方は、まず歯科医に相談してみましょう。
インプラントの寿命は、「インプラント体」と顎の骨との結合が失われたときに訪れます。10年~15年ともいわれますが、歯科医の技術とメインテナンス、患者さんの手入れ次第では30年~40年も珍しくはありません。日々の手入れを怠ってしまうと寿命に届かず、早い段階で使えなくなってしまうこともあるでしょう。
丁寧に扱うと寿命以上に長く機能を保つことができるので、しっかりとメインテナンスを行なうことが大切です。
カナザキ歯科ではすでに20年以上経過しても問題なく機能している人がほとんどですから、私の印象としては10~15年ということはありません。
ちなみに近代的なインプラントの考案者であるスエーデンのブローネマルク博士が世界で最初にインプラントを入れた人は40年間にわたりインプラントが正常に機能したと報告されています。
自分がいざインプラント治療を受けるとなると本当に迷う人が多いでしょう。私は歯科医師ですが、もし自分がインプラント治療を受けるならば、本当に信頼できる歯科医師に施術してもらいたいと考えています。
では、私がどのような基準で歯科医を選ぶかをお話します。
インプラントの治療手順は以下の通りとなりますが、患者様との医療面接をしっかりと行い、患者様の希望、背景、全身状態などを正確に把握しておくことが大前提となります。
歯科専用CT(コンピューター活断撮影器)を使って神経や血管の位置、あごの骨の状態、くぼみや傾きなどを確認します。通常のレントゲンでは骨の影になった部分にある神経や血管は確認できないので、歯科専用CTでとることが重要です。
検査結果から診断を行い、問題点の抽出や治療計画案を策定し、料金を含め、患者様のご希望とすり合わすためのカウンセリングを行います。治療に対しての不安を解消するためにも、ここでしっかりと医師とのコミュニケーションをとっておきましょう。有料で行っているクリニックもありますが、カナザキ歯科では丁寧なカウンセリングを無料で行っています。
必要があれば、治療計画案を修正し、カウンセリングで話し合った内容を反映させた治療計画を再度策定します。インプラント治療は人によってかかる期間や回数が大きく異なるので、ここで確認しておくと良いでしょう。
「インプラント体」を埋め込むための手術です。本数によりますが、手術時間は1~3時間程度で、日帰りで、鎮静や笑気麻酔を使いますから、心身への負担は少なくて済むでしょう。インプラント体と骨の結合を強くするために、2~3ヶ月治療期間(オッセオインテグレーション)をおきます。この期間中に仮の歯を使用できることもあるので、医師に相談してみてください。
再び歯茎を切開し、骨内のインプラント体に「ヒーリングアバットメント」を取り付けて、歯肉から頭出しを行います。ます。スクリューでインプラント体に固定しているので手術時間も短くて済み、日帰りが可能です。また現在は1次手術と2次手術を同時に行う方法が主流です。
2次手術から1~6週間おいて歯茎が治ったら、人工歯の型を取って作製・装着を行います。固定方法は、スクリューで固定する方法とセメントを使用して固定する方法の2種類ありますが、スクリュー固定の方がインプラント周囲炎に対して有利であると言われています。
インプラント治療後にこのメインテナンスをきちんと受けるかどうかによって、インプラントの寿命は大きく左右されます。
インプラントの寿命を縮める原因として最も多いのは、「インプラント周囲炎」です。インプラント周囲炎はインプラントの周囲の歯肉や骨が炎症によって破壊される病気で、インプラントの動揺や脱落の原因になります。どれだけ優れたインプラント治療を受けたとしてもインプラント周囲炎を防げなければ、インプラントの寿命は縮んでしまうのです。
インプラント治療後は、インプラントの寿命を縮める病気やトラブルを防ぐため、3ヵ月に一度、歯科医院に通院し、専用の器具によるお口のクリーニングをメインとしたメインテナンスを受けてください。
今まさに歯を失おうとしている人、すでに失った人。読者のほとんどはそのような状況に身を置かれていることでしょう。しかし失ったときのショックを思い出してみてください。もう二度とそんな思いはしたくないのではありませんか。そのためには2つのことが重要になります。
1つ目は全部の歯を使ってバランスよく食事を噛むことです。そのためには欠損があってはいけません。
人間の歯はお互いに助け合って働いていますので、28本そろっていて初めてバランスよく持続的に機能し続けることができるのです。そのため欠損ができたらすぐにそれを補う必要があるのです。
お口の中は28人で担ぐおみこしの様なものです。みんなが力を合わせないとゴールまでたどり着くことができません。一人でもさぼる人や脱落者がいれば、みんなが疲れてしまい、次々と脱落者が続出し、途中でおみこしはつぶれてしまします。歯科ではこれを咬合崩壊といいます。
咬合崩壊を防ぐためには、欠損ができたらすぐに補うことが大切です。欠損部を補うには今のところインプラントが一番優れた治療方法であることは間違いないでしょう。
2つ目の重要ポイントは歯科衛生士のメンテナンスを定期的に受けることです。
インプラントを長持ちさせるためのメンテナンスの重要性については10の項で述べましたが、ここでは歯を失わないためのメンテナンスのお話です。
歯磨きをしっかりしているから大丈夫と管変えている方も多いのですが、歯周病菌は嫌気性菌です。つまり酸素を嫌う細菌ですから、歯と歯茎の間の深いところに潜り込もうとします。2mm以上深いところまで正確に歯ブラシで清掃することは通常不可能です。歯周ポケットの深いところに細菌が増殖しバイオフィルムを形成しますので殺菌性のあるうがい薬も一切効きません。
効果のあるのは唯一、歯科衛生士が使う特殊なキュレットという専門の器具でバイオフィルムや細菌の塊を機械的にこさぎ取る方法しかないのです。確かな技術のある歯科衛生士に担当してもらいましょう。技術が悪ければ歯も一緒に削れてしまいますので要注意です。
アメリカでは公的な医療保険制度がないため、アメリカでは保険会社と契約して歯のトラブルに対応するのが一般的です。しかし保険会社もこの歯周病のメカニズムを熟知していますので、保険適応の条件として定期的に歯科衛生士のメンテナンスを受けることを契約者に対して義務付けているのです。
つまりメンテナンスを受けない人には保険金が下りないのです。この事実からもメンテナンスの重要性が良くお分かりになると思います。
カナザキ歯科ではインプラントや歯周病でお悩みの方に対して専門医で歯学博士でもある院長がいつでも分かりやすく気軽にご相談に応じております。
偏りのない確かなアドバイスをお望みの方は是非お気軽にご相談ください。メールでもご相談いただけますのでどうぞお気軽に。
著者:金﨑伸幸
【歯科臨床と教育にすべてをささげる歯科医】
患者様に心から喜んでいただける「良い治療」を追求したい。
日本最先端インプラント開発会議コアメンバー就任 / 先端歯科医療研究会 SEDIT代表に就任 / 九州歯科大学審美歯科非常勤講師に就任 / 愛媛大学医学部非常勤講師に就任 / Doctorbook academy「真夏のスキルアップセミナー3Days歯周病Xリグロス」応用編講師 /